Juice & Tremolo〜the works of chamber music

son-02 このthe works of chamber musicは、1990年から1997年までに作曲し、幸運にも録音が行われた音源より、1枚のアルバムのトータリティーも踏まえ多くの音源より選ばれた楽曲である。
スコアを書いた年月や楽曲の用途は違う為、編集する際の注意を払う必要があったように思われるが、"ホッピー神山のテイスト"というひとつの括りにおいて全体のトータリティーを賞味していただきたい。

#1 The Philosophy of the Torture, The Wired Heaven
このStrings Quartetのための楽曲は、1990年に斎藤ネコ・カルテットの委託により作曲し、彼らのもと初演されたものである。当時、彼らの2nd アルバムに収録予定であったが、他曲との楽曲傾向の違いによりお蔵入りなり、次なる彼らの3rdアルバム用の録音にて新録したいう情報をネコ氏より聞いている。
ここに収められたテイクは、1997年にMandala2によりレコーディングされ、その日のうちにGOK soundにてMIXが行われたものである。
#2 F.F.F.
3個のFの頭文字は、Fuckとも、FlatterにもFlapにもFROGにも、聞き手の方々の想像に委ねたい。
#1のThe Philosophy〜と同じ夜に斎藤ネコ・カルテットの演奏で初演されたSteve Reichをおちょくったようなユーモアあふれる楽曲である。
スコアにはミニマルに繰り返されるStringsの4小節のみしか書かれておらず、後はステージ上でカードと指揮を行った私の指示のもと、演奏者と観客が音(NOISE)を発した。
手法はJohn Zorn's Cobraに近いものとも判断出来るが、作曲者の意図はそれに対するアンチテーゼのようでもある。
Stringsのメンバーのみならず、観客までも巻き添えにした爆笑の世界は、ユーモアこそが音楽にとって大切だと説明する作者のモットーを大きく反映する作品に仕上がった。
#3 Madam Mantis (song for The Poool)
私が1995年より1999年まで参加していたNew Yorkのビデオ・ユニット“The Poool”にために1996年に書き下ろしたStrings Quartetための作品。
Schoenbergをはじめとした新ウィーン学派に影響されたような楽曲だが、Bartokピチカートを多用したテーマ部分の難易度は高い。
1996年に東京、恵比寿MILKでのThe Pooolのパフォーマンス1回のみこのテイク を使用した。
残念ながらThe Pooolは、1999年のAngie Engの脱退により活動休止状態でいる。
#4 Fantasm B
著名な芸術家を父親にもつ女性アーティストAnna Wildsmithのユニット“SOW”の2ndアルバム"SICK"用に、彼女の要請にて作曲、録音した楽曲。しかし、アルバムには収められなかった幻のバック・トラックである。
作品は、Strings、Harp、Metal percussionとDrumsのための変則な編成用に書かれている。
Metal percussionは映画“鉄男”のサントラでもお馴染みの石川忠氏。
クラシカルな弦とハープの響と、ワイルドなMetalとDrumの対比を狙ったスリリングな作品に仕上がった。
録音は1996年、GOK soundにて。
#5 Fresh for Jet Set
これもAnna Wildsmithのユニット"SOW"用に録音した作品。
これは、このテイクの上に何本もの彼女のVoiceが録音された形で、SOWのアルバム"SICK"には収められている。
演奏は90年代の私のメイン・バンドでもあったOPTICAL-8である。
ここでは、既に大友良英氏はバンドを脱退していたため、ギターはGAJIのKmjmが努めている。
OPTICAL-8が残したスタジオ音源でも3本指にも入る名演奏が、ここでは繰り広げられている。
#6 Nucleon
最近もPiano worksなるリリース予定の自らのPianoによる作品集があるが、これはそのソロPiano作品の初期の名曲である。
録音は、山中湖にあるeggs&shepsにて、山々や木立の見えるスタジオで録音された。
Messiaenにも捧げたような私の作風でも最も静なる部分を表した作品。
このスタジオのスタンウェイ・ピアノは、日本にあるものの中でも一番と豪語できるほどの、素晴らしい音色とチューニングを誇っている。
そこの空気感とPainoの優しい波動の調和が見事に結集した名録音である。
エンジニアは寺田仁氏。
#7 TVCM-中国電力
ここからの4曲はテレビCM用に作曲した作品である。
中国電力のこれは、1992年度の企業CM用のテイク。
Miles Davis出演のCMでも有名だった漆畑氏直々のリクエストでのコラボレーション。
彼の注文は、Mahlerの交響曲に中で幻想的に舞踏するシーンにしたいとのことだったが、私的には、ヨーロッパ伝統的なワルツな部分とフェリーニ的な狂気な世界が交錯するものしたいというイメージであった。結局、私のアイデアがとおり、最終的な仕上がりに相成った。
まだこの当時は、このように弦や管や打楽器群をふんだんに使ったCMも珍しくなかった。
#8 TVCM-Philips TV
海外電化メーカーのフィリップスの新型テレビのCM曲、1993年。
Ornette ColemanのNaked Lunchにインスパイヤーされたようなハード・ボイルドな作品。
ここでのSAX広瀬淳ニ、Drumsの山木秀夫の演奏は、素晴らしいの一言に尽きる。
CMの映像はナレーションがなくトリッキー、音楽もかなりイケているものだったため、日本のフィリップス支社の日本人スタッフには賛同が得られず、これは音楽と映像共にお蔵入りになってしまったいわくつきのCM。
ヨーロッパでは、これくらいの内容はよくあると思うのだが、日本はやはり保守的であった。
#9 TVCM-Toyota Hilux Surf
トヨタのアウトドア用4WD車が売りにかけた時のHilux SurfのCM。
アウトドアのワイルドな雰囲気を出す為、恵比寿のティガティガで生演奏バンドとして働いていたアフリカ人バンド“VUNDUMUNA”を起用。サバンナを豪快に走る4WD車のムードを充分にアピール。 余談だがVUNDUMUNAはアフリカ多国籍バンド。お国柄の流派はお互い相いれないことを初めて知る。
1994年。
#10 TVCM-J.T (Japan Tobacco)
"種を蒔く人"と題されたこのCMは、ヨーロッパの大地に種を蒔く農民のVisualで話題になった企業CM。
音楽は大地を匂わすため、ケルト音楽的なおおらかなトラッド・ミュージック。
浦山氏のギターもいい味を出している。
このCM音楽は1年のみのオンエアーの予定が、スポンサーJ.Tに好評に付き、2年間も流れた息の長いCMとなった。
1993年。
#11 Insects Dream
このCDのなかで、最もメイン曲にもなりうる虫の音によるシンフォニー。
どんなに複雑なスコア・ミュージックより素晴らしいアンサンブルを誇る虫の音。
これを聞いて、新たな世界に引き込まれるのは、聞き手のあなたの純粋な心持ちのせい。
録音月日が2006年となっているのは、タイムマシンで時に逆行してしまったのだろうか。
虫達は2006年でも大いに健在である。

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